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大阪高等裁判所 平成12年(う)1038号 判決 2000年12月14日

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は主任弁護人城正憲作成の控訴趣意書に、これに対する答弁は検察官松田成作成の答弁書に各記載のとおりであるから、これらを引用する。

一  控訴趣意中、事実誤認の主張について

論旨は、原判示第三ないし第六の事実について、被告人が黒色カーフィルムを用いて作成した文字を透明アクリル板表に貼り付け、その裏面に白色塗料を吹き付けるなどして、「スペシャルナンバー」と称する自動車登録番号標類似物(以下「スペシャルナンバー」という。)を製造した各行為は、道路運送車両法九八条二項所定の自動車登録番号標に「紛らわしい外観を有する物」の製造に当たることがあるとしても、同条一項所定の同標の「偽造」には当たらないのに、右の行為を「偽造」として認定した原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある、というのである。

そこで、記録及び証拠物を調査して検討すると、原判決が、その掲げる証拠により、被告人の共謀による本件各スペシャルナンバーの製造行為を自動車登録番号標の偽造として認定しているのは正当であり、また、その「道路運送車両法違反の訴因について」の項で、所論と同旨の原審弁護人の主張を排斥しているところも相当として是認できるのであって、当審における事実取調べの結果によっても、右の認定、判断は動かない。

所論は、スペシャルナンバーの大きさ、形状は真正の自動車登録番号標のそれらとほぼ同一であるが、真正の自動車登録番号標は金属板に緑色の文字及び数字が浮き出ているのに対し、スペシャルナンバーはアクリル板に黒色のフィルムを切り取った文字及び数字が貼付されているにすぎないから、真正の物とは異なることが一目瞭然であり、このことは、Eが自動車整備工場で他人のベンツに取り付けられていたスペシャルナンバーを見て、同工場の経営者の妻に「あのナンバープレートいけるの」と尋ねていることや、「そのナンバープレートをよく見ると、数字の部分がフィルムを貼ってあるだけで、平たくなっており、明らかに正規のナンバープレートとの違いがありました。」と述べていることからも明らかであり、いまだその模擬の程度は通常一般人をして真正の自動車登録番号標と誤認させるまでに至っていない、と主張する。確かに、関係証拠によると、スペシャルナンバーと真正の自動車登録番号標との間には、所論のいうような違いがあることが認められるが、しかし、もともと自動車登録番号標は、自動車が停止しているときだけではなく、走行中も外部から明確に視認され得ることを前提にして製造され、かつ、車両に取り付けられるものであって(それゆえ、道路運送車両法施行規則八条の二は、自動車登録番号標等は、自動車の運行中同番号が判読できるように自動車の前面及び後面の見やすい位置に確実に取り付けることを義務付けているのである。)、もし仮に、自動車が走行中であれば、所論のいうようなスペシャルナンバーの材質や文字及び数字の色の違い等は、よほど注意して見ない限り、その判別が不可能であると考えられる。加えて、被告人の捜査段階の供述調書によると、被告人は、スペシャルナンバーの上に常にプラスチックカバーを装着して使用することを想定して、これを製造、販売していたことが認められ(右認定に反する被告人の当審供述は信用できない)、そうすると、右カバーを装着すれば、所論のいうような違いは一層分かりにくくなるのであるから(なお、所論が引用するEの供述は、自動車整備工場で見かけたベンツのナンバープレートにプラスチックカバーが装着されているのを見て、そのカバーに興味を持って尋ねたところ、同工場の経営者の妻から、右カバーはナンバーがオービスに写らないようにするものであることを教えられ、さらに、ナンバープレートも正規の物ではないことを教えられて、よく見ると、数字等がフィルムを貼って出来ていることに気が付いたというもので、右供述によれば、そのように教えられるまでは、同人も、ナンバープレートそのものが真正の物と違うことに気付いていなかったのである。)、右の使用方法をも考慮に入れると、スペシャルナンバーの模擬の程度は、やはり一般人の通常の注意をもって真正な物と誤認する程度に達しているといわざるを得ない。したがって、所論は採用できない。

論旨は理由がない。

二  控訴趣意中、量刑不当の主張について

論旨は、原判決の量刑が重過ぎる、というのである。

そこで、記録を調査して検討すると、本件は、速度違反自動監視装置による写真撮影を困難にするナンバープレートカバーを販売して、購入者による速度違反行為を容易にしたという道路交通法違反幇助二件と、購入者や販売代理店の者らと共謀して、右写真撮影を困難にする偽造ナンバープレートを製造販売し、購入者がこれを取り付けた自動車を運行の用に供して使用したという道路運送車両法違反四件の事案であるが、原判決がその「量刑の理由」の項で説示するところにより、被告人を懲役一年一〇月及び罰金一〇〇万円に処し、四年間右懲役刑の執行を猶予したのは相当で、なにも重過ぎないし、また、当審における事実取調べの結果によっても、右の結論は変わらない。

所論は、道路運送車両法の自動車登録制度は、自動車の分布状態の把握といった旧制度の目的に、自動車の盗難防止や自動車を目的とする私権の安全確保といった諸目的を併有する制度で、自動車登録番号標等の表示義務を定め、その偽造や模造を禁止しているのも、右自動車登録制度の趣旨を実現するためのものであるから、スペシャルナンバーが正規の登録番号を表示している以上、たとえ、それが一面において、速度違反自動監視装置による夜間速度違反証拠保全を困難にする性質を有するとしても、決して右自動車登録制度の趣旨に反するものではないし、また、仮に右の性質を重視したとしても、速度違反自動監視装置により撮影されたスペシャルナンバーは、せいぜい自動車登録番号を表示していないといえるにとどまり、原判決が説示するように、正規の登録番号と異なる番号を作成したのと価値的に同視することなど到底できず、結局、その違法性の程度は、自動車登録番号標等の表示義務違反を超えるものではない、と主張する。しかし、道路運送車両法は、多目的な法律で、その中には、道路交通の安全確保を車両面での規制により実現しようという目的もあり(同法一条)、その意味で、夜間速度違反証拠保全を困難にし、右違反を誘発するおそれのあるスペシャルナンバーが、同法の目的に反することは明らかであるから、自動車登録制度の趣旨から違法性が低いとする所論は前提を欠いており、失当である。また、確かに、スペシャルナンバーは、速度違反自動監視装置によりその一部又は全部が撮影されないだけであるから、原判決が「道路運送車両法違反の訴因について」の項で説示するような「正規の登録番号と異なる番号を作成したのと価値的に同視できる」とまではいえず、この点の原判決の説示は誤っているが、他方、そうであるからといって、所論のように被告人が自動車登録番号標の偽造という手段を用いたこと自体の違法性を無視して、その結果のみから違法性の程度が自動車登録番号標等の表示義務違反を超えるものではないなどとはいえないから、この所論も採用できない。

所論はまた、被告人の各速度違反幇助はその正犯の違法性、可罰性よりも低く、本件各速度違反の正犯はいずれも罰金刑に処せられているから、被告人の責任も同様に軽い、と主張する。しかしながら、個々の犯罪における正犯と幇助犯の違法性、可罰性の関係が抽象的、一般的には所論のようにいえるとしても、それは、あくまでも、量刑に当たって考慮すべき一つの観点にすぎず、たとえ、幇助犯であっても、その動機、経緯、行為の反復性等他の事情によっては、最終的に正犯よりも責任が重いこともあるから、必ずしも所論のようにはいえない。

論旨は理由がない。

よって、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 白井万久 裁判官 東尾龍一 裁判官 増田耕兒)

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